牧野 修『MOUSE』
ハヤカワ文庫JA 1996
まあ、とりあえずどんな本か、ということで背表紙の紹介文を引用。
「ネバーランドは子供の島だ。河口に浮かんだ廃墟島に生きる子供たちは、腰に接続したカクテル・ボードから24時間ドラッグを大量摂取し、主観と客観、夢と現実が交錯する魔法の世界に住んでいた。他人の精神に意識を刷込む少年、幻覚の人造人間を操る少女。さまざまな力を発揮する彼らは、自らを「マウス」と呼んだ――フリークな少年少女たちの楽園を、SF界の新しい才能が、特異な言語感覚で描いたパンク・ノヴェル!」
5つの短編からなる、いわゆる連作短編というやつである。
一言で言えば、おもしろかった。こういう設定・雰囲気(『AKIRA』っぽい部分があるといえば、わかる人が多いだろうか)の小説は久しぶりに読んだので、なかなかに気持ちよかった。やはり、ポイントとしては主観と客観の交錯、意識の変容といったところか。
個人的には視覚、聴覚といった五感が乱れる描写(目に見えるものを「聞いた」り、心象を「視た」り)は興味深かった。センスが感じられる部分だ。
ただ、主観と客観の交錯という点に関しては、文中で言われているほどにはそうした感覚は受けなかった。ラストの処理に関しても、そこまで切れ味あるものとは思わない。もっと足元が揺らぐような眩暈感が欲しかった。それぞれの短編が完成度が高いので、逆にラストのまとめ方がしっくりとこなかったのかもしれない。
「言語による闘争」は少しチープ。そこらへんは個人差がある気がするけれども。ただ、意味のない言葉をつくる言語センスは抜群。下手な人が書いていたら、言葉がクローズアップされるシーンは読めなかったろう。(蛇足:ところで、高河ゆんはこの本は読んだことあるのだろうか)
結局のところ、それこそフリークな雰囲気が全体として構築されているので、すばらしい。うん。どこかしら引っかかるところのありそうな方は、是非読んでみてください。